- 様々なバイアスにより、主観・直感は誤った判断を導く
- 客観性を磨くためのスキル:行動経済学・統計学
- 統計で常識を打ち破った例①公衆衛生学
- 統計で常識を打ち破った例②経済学
- バイアスに囚われている他人に働きかけていくには?
- おわりに
街中でどの店に入るか、ゲームでどの戦略を取るか、といった日常的な選択から、
仕事での選択、あるいは結婚や住宅購入といった重要な選択まで、私達の人生は選択に満ち溢れています。
私達はその選択を自由に行い、また自分で下した決定はかなり合理的であると信じています。
しかしながら、実際のところ、主観や直感に基づいて私達が行う選択は、しばしば不合理であるということを、行動経済学の研究は明らかにしてきました。
冷静・慎重に考えて賢い判断を下したつもりであっても、後から振り返ってみるとまったくもって間違いだった、という経験、私は何度もあります。
本記事では、なぜ私達が不合理な判断をしてしまうのか、
そしてそれを克服するためにはどうしたらよいか、という点について、良書を紹介しながらまとめます。
様々なバイアスにより、主観・直感は誤った判断を導く
合理的な判断の妨げとなってしまう人間の性質は、バイアスと呼ばれます。
中でも、「正常性バイアス」や「確証バイアス」といった言葉は、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
これらバイアスについて体系的にまとめ、その対策まで説明しているのが、「賢い人がなぜ判断を誤るのか」という本です。
様々なバイアスを5つのグループに大別し、分かりやすくまとめています。
各バイアスがもたらすトラップによって、ビジネスパーソンは様々なパターンで判断を誤ってしまうといいます。
そして厄介なのは、たとえこれらのバイアスを自覚できていたとしても、バイアスから逃れることができない点です。
本書では、個人で判断するのではなく、組織の力を使い、集団で適切なプロセスを用いてバイアスの影響を回避できると説いています。
ビジネスの場面を想定した内容でしたが、日常生活へも十分応用できると感じました。
一人で決めるだけでなく、周囲の人に相談して意見も取り入れることで、自分が陥っているバイアスに気付けることも多々あるはずです。
客観性を磨くためのスキル:行動経済学・統計学
経験則や直感ではなく、客観的に物事を判断するためには、上述した行動経済学に加えて、統計学も強力なツールとなるでしょう。
「すべての客観的な根拠は統計学に通じる」と言われる*1ように、主観のトラップに陥ってしまわないように統計学のセンスを身につけておくのは重要だと言えます。
統計学の基本を振り返り、また実社会へ活用するためのヒントをまとめているのが、「統計学が最強の学問である」という本。
「統計はすごい!」という話だけでなく、社会にあふれる不適切なデータ分析、例えば偏ったアンケートやビッグデータへの無意味な投資などを、痛快に批判しています。
大学で習うような統計分析(t検定、カイニ乗検定、回帰分析など)は、データの種類や解析の目的に応じて分類すると、たった一枚の表にまとめられる、というのは驚きでした。
(今までの自分は、統計分析を行うたびに「これってどの検定すればいいんだっけ!?」と混乱してしまい、いちいちググっていたので...)
また、怪しいと思った言説は『○○ 回帰分析』で検索するとよいというテクニックもなるほどと思いました。
特に最近は、新型コロナウイルス関係で様々な言説が飛び交っています。
確かに、それぞれの言説に「回帰分析」というワードをくっつけてgoogle検索すると、統計的裏付けと共に解説するwebページが検索結果の上位に表示されました。
自分の主観で判断するのではなく、より客観的にフェイク(統計的な裏付けが得られていないもの)の情報を見破るために、とても役立ちそうです。
統計で常識を打ち破った例①公衆衛生学
有名な本として「FACTFULNESS」を挙げます。
医師であり公衆衛生学者でもある著者が、様々なチャートを使い、世界の現状を正しく認識することの重要性を説いています。
同時に、クイズ形式で読者の知識を問い、私達が世界の現状を誤解しているのかも指摘しています。
冒頭で紹介した「賢い人がなぜ判断を誤るのか」は、「○○バイアス」という言葉を使い思考上のトラップを指摘していた一方で、
本書は、「○○本能」という言葉で指摘しています。
共通する内容もかなり多いので、両書を比較しながら読むと面白かったです。
ちなみに、本書で取り上げられるバブルチャートは、下記のウェブサイトで公開されています。
SHOWING A FREE VIZUALIZATION FROM GAPMINDER.ORG, CC-BY LICENSE
例えば上の図(バブルチャート)は、1969年と2019年の世界各国の平均寿命と収入をプロットしており、
円の大きさは人口を表し、色は地域を表しています(水色:アフリカ、赤色:アジア、黄色:欧州、緑色:米州)。
アフリカと聞くと平均寿命が短い"イメージ"がありますが、この50年の間に大きく改善し、2019年ではほとんどの国で60歳以上となっているのがわかります。
また、特にアジアの大国(大きい丸=中国・インド)の経済水準が大きく向上したことも見て取れる等、色々な考察が得られるチャートとなっています。
様々な社会問題をテーマに、"イメージ"で判断するのではなく、データを使って正しく判断することの大事さを認識させられました。
統計で常識を打ち破った例②経済学
「ヤバい経済学」という本を紹介します。
例①との違いを挙げるとしたら、「FACTFULNESS」は世界全体を俯瞰した本であり、「ヤバい経済学」は身近な問題にフォーカスした本である、と言えると思います。
何がどうヤバいんだ!?という印象の書名です。英語のタイトル"Freakonomics"のほうがピンとくるかもしれません。
ちょっと風変わりな経済学者が、統計手法を駆使して世の中の通説を検証していく内容。
その結果、私達の思い込みの多くが実は誤っていた、ということを次々と指摘していく文章構成となっています。
統計の力を実感させてくれる本です。
序章に述べられていた「道徳は、世の中がどうあって欲しいかを書く。経済学は、世の中が実際にどうなっているかを表している」という話が印象的でした。
特に面白かったのは、親が生まれてきた子供につける名前のカテゴリー別の傾向や、その後の子供の人生との相関を検証した話。
高所得、高学歴な人の中に流行った名前が、時間とともに低所得のグループに伝わっていくのだそうです。
その他にも、単純な勝敗の記録から、日本の大相撲の八百長問題まで指摘していたのには脱帽でした。
またこの本には、「超ヤバい経済学」という続編があります。
「ヤバい経済学」同様、日常的な常識やタブーに対して容赦なく切り込んでいくのが痛快でした。
一番印象的だったのが、「思いやりが本当にあるのかどうか」というテーマ。
思いやりについては様々な経済学的な実験の歴史があったそうです。
その結果、思いやりに基づいた行動には、後ろめたさ等のネガティブな感情がインセンティブとして働いている、ということが示されているらしいです。(そうなのか...)
その他にも、地球温暖化に対する統計的な問題の話もホットで面白かったです。
以前別の記事で紹介した1970年代の地球寒冷化の話も話題に上がっています。
どちらの本も、直感や思い込みを信じるのではなく、積極的に疑って検証していくことの大切さを強く発信しているなと感じました。
バイアスに囚われている他人に働きかけていくには?
主題からやや逸れてしまいますが、バイアスに囚われている他人を説得し、意見を変えさせることが難しい、という感じる経験はありませんか。
私自身が客観的に正しいと信じる事実を見つけ、その事実を相手に突きつけて説得しようとしても、なぜか相手は反発し受け入れてくれないということに何度も悩まされてきました。
特に最近は、Twitter等、SNSを通じて誰もが気軽に意見を発信したり議論したりする機会が増え、このような場面に遭遇することが多々あると感じています。
この問題について扱っているのが、「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」という一冊。
「はじめに」に書かれた内容に大変興味が湧きました。
怪しげなバイオ技術に数十億ドルを投資するよう説得できた起業家、地球の未来のために取り組むよう国民を説得できなかった政治家。
…彼らの違いは何なのか?
数字や統計は真実を明らかにする上で必要な素晴らしい道具ですが、人の信念を変えるには不十分で、行動を促す力は皆無だそうです。
人間がどんなにデータ好きだろうと、それを評価して判断を下すときに用いる価値基準は、情報や論理ではなく意欲、恐怖、希望、欲望といった感情的なものだ、と主張されています。
(確かに、研究の現場においても、合理的判断ではなく単純な好き嫌いで動いている人はいるような気がします…)
先述したバイアスの内容にも触れています。
例えば確証バイアスとは、自分が肩入れする意見、つまり元々賛成であった意見や、それを支持するデータばかりを取り入れるようになり、ますます自分の意見に執着してしまう傾向のことを言います。
そして確証バイアスに陥った結果、人が持つ意見は両極端になってしまうそうです。
※確証バイアスと現代のインターネットについては、こちらの記事に詳しくまとめました。
逆に、自分自身がこういうような状況に置かれていることを念頭に入れて行動できれば、少しは合理的な人に近づけるかもしれない、と思いました。
その他にも、この本では、事実を使って人を動かすにはどうしたらよいか、という内容も書かれていて大変参考になりました。
相手に選択肢や権限を与えて、主体性をもたせる形にすることで、積極的に行動を変えてくれるといいます。
カーネギー著「人を動かす」の内容にも繋がってくるのが面白いです。
おわりに
この記事で紹介した本で取り扱われていたように、人が囚われてしまうバイアスについては、科学的な解明が進んでいます。
その結果、バイアスの性質を悪用し、都合のいいように人々の行動を変えようとする人たちも増えてくるのではないか、という不安も生じてきます。
恐ろしい社会になってしまいそうな心配も生まれてきますが、それに打ち克つことができるよう、今回触れたような人の性質について理解していくことが大事だと思います。
【関連記事】