博士号を取得するために最も重要なのは、博士論文を書き上げて審査に合格することだと思います。
それがどれくらいの難易度なのかは、身近に博士課程の先輩がいないと知ることは難しいでしょう。
3年で卒業(博士号取得して修了)することがどれほど大変なのか、また日常生活はどれほど忙しいのか、イメージしにくいですよね。
そこで、この記事では私の体験を元に、博士論文を出すまでの大まかなスケジュールと、そのための対策をまとめました。
博士号取得のための条件
(注意:大学院によってルールが違うので、参考にしたい方はご自身で各大学院の規則をしっかり調べてください)
大ざっぱに、一般に求められる要件をまとめました。
- 講義を受けて単位を一定数以上取得する
- 卒業論文(博士論文)を提出する
- 審査でプレゼン発表し合格する
- 一定回数以上の学会発表や査読付き論文の投稿をする
大まかに書くとこの4つです。
上3つは学部生や修論生と同じですが、青字で書いた2つは内容がヘビーになります。赤字で書いた要件は、博士課程特有のハードルと言えます。
単位を取得するのは基本的に問題ないと思います。修士の学生に混ざって受講します(中には博士課程限定の講義がある所もあるかもしれません)。
講義の難易度が高くなるわけでもなく、修士の時と同じように単位を集めていました。
私にとっては、研究の息抜きの感覚で、楽しく受講していました。
自分の研究から離れて他の分野に触れるのは、気分転換になりますし、思わぬヒントになることもあります。
博士論文をつくる
卒業論文(いわゆる博士論文。博論やD論とも)は内容が重くなります。
研究する期間は修論よりも1年長くなる程度ですが、内容が数倍の感覚で重くなりました。
いわゆる博士課程と呼ばれるものは、2年間の修士課程に続く3年間の期間を指すことが一般的です。
(修士課程と博士課程の仕組みについては、こちらのページが分かりやすいです)
博士論文では、自分の研究成果だけでなく、その分野について総合的・俯瞰的にまとめることも要求されました。
理論的な部分から、他者による研究動向まで、導入部分で詳しくまとめます。
ページ数で言うと数十ページです。
サラッと書く感じではなく、総説論文(いわゆるReview)を作るようなイメージです。
「自分がこの分野について広く深く理解していますよ」というのを博論内で示す、ということなのでしょうね。
また、大学院によって差異はあるものの、多くは博士課程=博士後期課程、修士課程=博士前期課程という位置付けとなっており、
博士論文では後期だけでなく前期、つまり修士課程で得られた研究成果もまとめることが多いと思います。
修士も含めた5年分の研究内容を一つの論文にまとめると、かなり長い論文になります。
ページ数で言うと、私の場合200ページを超える論文になりました。他の人では300ページや400ページを超える博士論文も多いです。
(Microsoft Wordの体裁の設定によって大きく変わるので、ページ数はあまり参考にならないですが…)
審査でプレゼン発表し、合格する
修士2年生同様、博士論文にした内容をプレゼンテーションします。
プレゼンテーション時間は長く、私も他の先輩も30分は軽く超えました。
さらに続いて、審査官(教授陣)から質疑応答を受けます。
修士までは、質疑応答で多少うまく答えられなくても、卒業できなくなるということは基本的にない(少なくとも私の知る限り卒業できなかった人はいません)ですが、
博士論文の審査ではとても厳しくなります。
発表内容に関する論理的な抜けは、容赦なく突っ込まれました。
しかも時期を分けて2回あります。1回目が予備審査、2回目が本審査と呼ばれます。本審査では予備審査で受けたダメ出しを補って再度プレゼンテーションします。
質疑を通じ、理論をちゃんと理解して取り組んでいるか、また研究を体系的・論理的に取り組んでいるか、といったことが問われているな、という印象を受けました。
私の場合、プレゼンと質疑が終わるとだいたい1時間半くらい経過していたと記憶しています。喉はカラカラになりました笑
一定回数以上の学会発表や査読付き論文投稿をする
中には修士でこの要件がある所もあるかもしれませんが、とにかく博士課程では基本的にこの外部発表の要件が求められます。
特に大変なのが査読付き論文を出すことでした。
この要件がある場合(あるのが一般的だと思います)、博士論文自体がどんなに完成していても、博士号を取ることはできなくなります。
査読付きなので、学術論文をSubmitし、Acceptされなければ出すことができません。
この学術論文の投稿が遅れたり、直前でRejectされたりしたために、泣く泣く卒業を遅らせたケースはいくつも知っています…。
大学院によって多少異なりますが、以上が主な要件だと思います。
終わり頃に慌てて準備してこなせる量ではとてもありませんよね。
長い期間でいかに準備していくかが、スケジュール通りに卒業し、かつ健康的生活を送る(?)上で大事になってくると言えるでしょう。
博士課程はマラソンのような長期戦だと思います。
3年間をどう過ごしたか振り返る
1年に1本の論文投稿を目指した
まず最初に意識したのは、査読という不確定要素がある、論文投稿です。
査読に時間がかかったり、Rejectされて他の論文誌に出し直したりすると、何ヶ月もかかる可能性がありました。
なので、博士課程の2年目が終わるまでにはクリアして、博士論文に集中したい、と考えました。
なので、1年に1本、できれば9ヶ月に1本くらいのペースで1つの研究をまとめ、論文にして投稿するように意識しました。
研究をしていると、一つの検討項目を突き詰めていきたくなるのが自然ですが、そこはあえて我慢して、論文としてまとめられるようにすることを意識しました。
論文の補強となるような検証データ・参照データを意識して集めていきました。
この意識によって、比較的スムーズに論文投稿できるようになったと思います。
ただ、実験してみないとどんな結果が得られるか分からないのが研究です。
博士課程2年目の夏頃は、とても発表できるようなデータが得られず、苦しかったのを覚えています。
2年目の研究成果が論文として投稿できたのは、結局3年目の夏頃になってしまいました。それでも博士論文の作成にはあまり影響はしなかったですが。
何が起こるかわからないのが研究ですから、あくまで目標とするペースに過ぎない点に注意が必要です。
大事なのは、論文投稿を意識してデータ集めをしておくことだと思います。
博士論文、特に研究背景部分は1年前から書き始めた
博論の前半となる「研究背景」の部分(Introduction)は、自分の研究成果ではなく、先述したような分野のReviewとなります。
文献を調べながら書くことになるので、かなり骨が折れる執筆作業となります。
逆に言うと、研究成果が無くても書けるので、研究がまとまる前の段階で書くことができるのです。なので、早い段階で書き始めることができます。
私の場合、3年目に入ることには文献集めを行い、ゴールデンウィーク頃から書き始めました。
夏休みまでには完成し、指導教員に内容添削をお願いしていました。
(論文執筆を日課にするための心構えは、こちらの記事でまとめています)
博論の後半の研究成果の部分は、既に学術論文にした内容をまとめ直すだけなので、前半と比べるととてもスムーズでした。
一方、先輩の中には、直前にならないと動けないタイプの人もいて、締め切り前にガーッと徹夜していました。
どっちのスタイルもあり得るでしょうが、中には、直前で心が折れて結局卒業を延期にする人もいました…。
まとめ:博士課程はきつかったか?その後のキャリアは?
博士課程は修士課程よりも大変ではないのか、と訊かれることはよくあります。
私の感想としては、「不安になることも多かったが、計画性があれば体力的には修士よりも楽だった」です。
研究成果が得られるかどうかはやってみないと分からないので、それに対する不安は時々感じていました。
また、この記事で書いたように、先を見て行動することが必要になってきます。
一方で、自分で決めたペースでコツコツと研究に取り組めるのは楽しかったです。
修士課程は、講義や就活に追われつつ、短い期間で研究をまとめたので、慌ただしかった印象が強いです。あの頃の方がはるかに忙しかったなという印象です。
博士課程では、徹夜は一回もしなかったです。深夜まで作業することもなく、遅くても21時までには研究をやめて、ゲームをして遊んでいました笑
ラボでの生活リズムについてはこちらの記事でまとめました。
ただし、私のケースは比較的スムーズな方だったと思います。
博士号を取るまでの道のりは千差万別です。
もっと波乱万丈な研究生活だった人もいますし、逆に2年半で卒業していった超優秀な人もいます。
今回の内容は、あくまで私個人の体験とそれに基づいたアドバイスです。
また、博士号を取った後、どのような働き口(キャリア)があり得るのか?という疑問を持っている方は多いでしょう。
大学に残って教授への道を進む、そしてそれは茨の道である…というのが一般的なイメージかと思います。
しかしそんなことはなく、様々な場所で活躍しておられる方がいます。
私の周りでも、博士号取得後、産・官・学それぞれ多様に就職していきました。
「アカデミアを離れてみたら 博士、道なき道をゆく」という本では、21人の博士号取得者の方々のキャリアパスが、酸いも甘いも引っくるめてまとめられています。
博士課程のイメージの一助になれば嬉しいです。
【参考記事】