火星探査機の着陸方法をまとめたら、面白い歴史が浮かび上がった

2021年は火星探査ラッシュ

今年の2月は、火星探査に関するニュースがにわかにホットな話題となりました。

アメリカ、中国、アラブ首長国連邦から打ち上げられた機体それぞれが、2月に相次いで火星に到着したそうです。

地球から数千万kmも離れた他の惑星に、3機の探査機がほぼ同時に到着するとは、とても不思議な感覚がします。

 

アメリカが打ち上げたのは、パーサヴィアランスという名前の探査機。

発音しにくい名前もさることながら、着陸のメカニズムが複雑で、興味深いです。


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大気がある惑星にどうやって着陸するか?

アポロ宇宙船の月面着陸はシンプルで、月の重力に逆らうようにエンジンを噴射するだけでした。

しかし火星は、重力が月よりも大きい大気がある、という特徴があります。

特に、大気は地球よりも薄く、パラシュートだけでは十分に減速できないそうでそう。

これらの要因で、火星着陸の難易度は、月よりも相当高くなっています。

 

パーサヴィアランスの動画をきっかけに、過去の探査機がどのようにして火星大気圏突入と軟着陸を成功させてきたのか、

その技術を調べた結果を本記事ではまとめました。

その技術は、大まかに分けて3つの世代に分けられたので、勝手ながら第一世代~第三世代と名付けてみました。

 

第一世代 ~大気圏突入カプセルと降下エンジン~

1976年、アメリカが打ち上げた探査機バイキング1号・2号が火星着陸に成功し、初めて火星表面の探査を行いました。*1

バイキング号1機の重量は約570 kg。*2

着陸の手順は、下のNASA公式サイトで動画として記録されています。

www.jpl.nasa.gov

まとめると、

  1. 大気圏突入カプセルに守られた状態で火星の大気圏に突入
  2. 突入後、パラシュートを開いて減速
  3. カプセルを上下に分離
  4. 探査機に備え付けられたエンジンを噴射して軟着陸

というメカニズム。

4.はアポロ着陸船と同じで、バイキング号では大気圏への対応として1-3.の設備を加えた、というイメージが持てます。

尚、バイキング号は地表を移動することはできず、着陸地点に留まって観測を行うタイプです。

 

時代は前後しますが、今年着陸した中国初の火星表面探査機・天問1号も、ほぼ同じ方法のようです。

www.afpbb.com

ただし、動画を見ると、センサーで地上の様子を確認したり、エンジンを横方向にも噴射したりして、着陸場所を調節することもできるようです。

また、着陸機は2段構造になっています。下部はステージのような形をしていて、かつスロープが備わっています。

上部はタイヤの付いた探査車(重量は240kg*3)で、着陸後、そのスロープを使って火星表面に降り立つという複雑な方式です。

初めての火星表面探査で、この複雑な着陸・展開方式を一発で成功させたことはすごいと思います。

 

第二世代 ~エアバッグで全身を包む!~

1997年、アメリカは新たな探査機マーズ・パスファインダーを送り込み、着陸を成功させました。

この探査機は、ディスカバリー計画という、低コスト化を目指した計画の一環で打ち上げられ、費用はバイキング号の5分の1に抑えられたそうです。*4

マーズ・パスファインダーは、火星に到着した際、バイキング号とは違って火星周回軌道に入らず、直接大気圏に突入しました。

火星周回軌道に入るためには燃料を消費してエンジンを噴射する必要があります。直接火星の大気圏に突入することは、難易度は上がるが余分な燃料を搭載しなくて済む、ということなのでしょう。

wikipediaによると、マーズ・パスファインダーの重量は、バイキングの約半分の264kgだそうです。

 

そして驚いたのは、その着陸方法。


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  1. 大気圏突入カプセルに守られた状態で火星の大気圏に突入
  2. 突入後、パラシュートを開いて減速
  3. カプセルの下部を分離
  4. 着陸機全体をエアバッグが包む
  5. カプセル上部・パラシュートを分離
  6. エアバッグに守られた形で火星の地表に衝突

なんという大胆な発想!そして一発成功させてしまう所がすごすぎます!

 

マーズ・パスファインダーにはソジャーナという名前の約10kgの探査車(ローバー)が搭載されていて、

初めて火星表面を移動しながら観測することに成功しました。

 

この革新的な着陸方法は、その後もスピリットオポチュニティ(どちらも2004年着陸)に引き継がれます。

しかし万能かと言われるとそうではなく、着陸機が重すぎるとエアバッグが使えなくなってしまうそうです。*5

 

例えばスピリットの重さは185kgと、比較的軽いです。*6

しかし、未知の惑星を探査するためには、もっと多くの観測機器等を搭載して、かつ移動できるローバーの形で着陸させるのが都合が良いはずです。

そこで、スカイクレーンなるものが登場しました。

 

第三世代 ~「スカイクレーン」の登場~

2012年に着陸したキュリオシティは、なんと900kg近い重さだそうです。*7

キュリオシティは「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」という名前からあるように、実験機器をたくさん積んで充実した探査を行えるように設計されたと思われます。

このキュリオシティの着陸方法は、この動画が分かりやすいです。

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  1. 大気圏突入カプセルに守られた状態で火星の大気圏に突入
  2. 突入後、パラシュートを開いて減速
  3. カプセルを上下に分離
  4. 探査機上部に備え付けられたスカイクレーンがエンジンを噴射して減速
  5. スカイクレーンが探査機を吊り降ろし、軟着陸
  6. スカイクレーンはさらにエンジンを噴射して、他の場所に飛び去る

エアバッグの代わりに、スカイクレーンというドローンのような装置によってゆっくりと着陸します。

着陸に関することは全てスカイクレーンが行ってくれるので、ローバーはそのままの形で直接地表に降り立つことができる点も、設計する上で都合が良さそうです。

 

そして今年2月に着陸したパーサヴィアランスは、1トンを超える重量(1025kg)を持つローバーとして着陸に成功し、生命の痕跡や居住性に関する数々の実験を行っています。*8

 

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以上、約50年の火星探査の歴史を、着陸方法を比較しながらざっと振り返りました。

宇宙開発に携わる技術者達のとてつもない努力が垣間見えて、大変感銘を受けました…。

 

 

【日本の火星探査機の本】

*1:軟着陸に初成功したのは、ソ連のマルス3号(1971年)。ただし着陸直後に通信不能になり探査はできなかったらしい

*2:Viking 1 - Wikipedia 乾燥重量なので、おそらく推進剤は除いた重量

*3:天問1号 - Wikipedia

*4:マーズ・パスファインダー - Wikipedia

*5:キュリオシティ「恐怖の7分間」の内幕 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

*6:Spirit (rover) - Wikipedia なお、2008年にフェニックス、2018年にインサイトという探査機が着陸した。これらは300-400kgで、ローバーは持たない。着陸方法はバイキング号の方式に近い。

*7:Curiosity (rover) - Wikipedia

*8:Perseverance (rover) - Wikipedia