コロナ禍の発生から1年以上経ったいま、私達が生きる社会が、これまで経験したことのないものになっていることをひしひしと感じています。
「今の状況が、これからの日本に、どのような影響を与えるのか?」「私達の社会に不可逆的な影響を与えるのではないか?」という不安と心配がつきまとう今日此頃ですが、
これからの社会を生き抜くために考えるヒントとなる本がいくつか登場しています。
コロナ後の社会を考える
日本経済新聞出版社による一冊。
パクスとはローマ神話に登場する平和と秩序の女神のこと。
English: Miha UlanovРусский: Михаил Уланов, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
コロナ前までは、(主にアメリカによる)平和と秩序がもたらされていました、いま現在、米中対立が問題となっているように、その秩序は崩れつつあるそうです。
アフターコロナ+大国の力関係の変化、という2つのファクターによって、
世界情勢が今後どのように変化していくかという大きな視点から、私達の日常生活がどう変わるかという身近な視点まで、
国内外の多くの識者によって様々なスケールで現状や予想が論じられています。
本書の内容は、まるで百科事典のような豊富さでした。
特に印象に残ったのは「自分の親より豊かになれる自信があるか(p.222)」という問い。
経済停滞の影響が私達の意識にも及んでいることに、ハッとさせられました。
新自由主義(ネオリベラリズム)の中で生きていくためには
この本は、ややショッキングなタイトルですが、主なテーマは、エピローグに述べられているように「2020年代の『貧困問題』を理解する」という内容。
平成以降、ネオリベラリズム(新自由主義)に基づいて日本の社会システムがアップデートされてきたそうです。
政府のスリム化が進んだ一方で、生活を支える仕組みが脆弱化し、そこにコロナ禍が致命傷を与えた指摘されています。
格差、介護、就職氷河期世代など…これまで存在していた日本の社会問題が生々しく語られ、またコロナ禍によってどう影響されたのか、詳しく議論されています。
読む前と後で、街の姿が別物に感じられました世間への見方が大きく変わったような感覚でした。
また、働き盛り世代の自分としては、ジョブ型雇用の導入の話が印象深かったです。
文中の議論によると、ジョブ型雇用においては、人気ホストのように自分に「固定客」がいないと仕事を失ってしまう。
つまり、これまで終身雇用によって組織に守られていた人も、守られなくなってしまう可能性があります。
そんなシステム下で生き抜くためには、自分の市場価値を高めなければいけなくなってきます。
社会全体がこのようなシステムになっていくのは正直怖いなと感じました。
一方で、自分の市場価値を高めたいという意識は私自身にも元々ありましたし、会社に依存しない生き方について記事にしたこともあります。
なので、ある意味スッと納得できたと言うべきでしょうか、モヤモヤが解消された心地にもなりました。
ジョブ型雇用はあくまで雇用形態の一つに当てはまると思いますが、雇用されない働き方として、フリーランス、自営業という選択肢がありますね。
自営業を始めるメリットや、実際どうしたらいいか、という情報が得たければ、こちらの本が参考になると思います。
この「貧乏はお金持ち『雇われない生き方』で格差社会を逆転する」は、リーマンショック直後のタイミングで出版された本ですが、
法人を立ち上げる利点とその方法が詳しく書かれています。
「これなら自分でもできそう!」と思えてくる一冊でした。
10年以上前に出版された本なので、情報の新しさは要注意ですが、
私が子供の頃(20年以上前)と比較して、株式会社設立のハードルが大きく下がっていたことに気づかされました。学校では教えてくれないことなんですよね。
自分を売り込む"営業力"・"交渉力"も大事?
ジョブ型雇用やフリーランスになったら、自分を売り込むテクニックが重要になると思います。
自分の能力や専門性、また過去の業績をアピールして、雇用主や取引先から「この人の力を借りたい!」と思わせるスキルが求められるのではないでしょうか。
まさに、自分を売り込む「営業」の領域に入っていきます。
研究一筋の身にとっては、「営業スキルなんて皆無だ…」と頭を抱えてしまいそうです。
私も営業経験など全く無く、周囲に営業マンもいないのですが、こちらの本はとても参考になりました。
この「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」では、
モロッコの商人や優秀な営業マンへの取材を通じ、営業スキルのポイントを見極めていきます。
大事なのは、相手が何を欲しているか、という意識だと思いました。
研究の場合、どのような研究者を雇いたいか、という教授やリーダーの立場を理解することが必要でしょう。
相手の要求を考慮せずに、自分の専門性・業績・興味をアピールするだけでは、ポスト探しの打率は低くなってしまうと思います。
自分を売り込む力を身に着けたいですね。
さらに、研究や開発の仕事において、成果や理論を他者に説明し、納得させるための「交渉」は頻繁に必要となります。
それは研究資金を得るためのプロポーザル作成であったり、論文の査読過程でのディスカッションであったり、また、学会での発表時における質疑応答など、様々なシーンで求められます。
「武器としての交渉思考」は、交渉技術を高めたいと考えている人にとって非常に有用な一冊です。
本書は、交渉を「ゼロサムゲーム」(一方が得れば他方が損をするという考え方)から「ウィン・ウィン」へとシフトさせる、新たな視点を提示しています。
これは科学研究の現場でも応用可能で、多様な意見や立場の人々と共に新たな知識を創造し、学問を深化させていくうえで極めて役立つ思考法でもあると思います。
交渉の技術を学び、自分のアイデアをより広く共有し、同時に他者の視点を理解し受け入れる力を身につけることは、研究の進行だけでなく、共同研究の成功にも大いに寄与するはずです。
「資本論」を通じてネオリベの理解を深める
高校生からわかる「資本論」
「ところでネオリベラリズムって何?」という疑問を晴らすためには、マルクス主義との二項対立を通して理解を深めることが一策だと思います。
しかしマルクスの資本論は難しすぎて、軽い気持ちで読んで内容を理解するのは困難でした。
そんなとき、この解説本がとても役に立ちました。
「高校生からわかる」とありますが、私のような理系人間は、高校卒業以降、この分野にほとんど触れていなかったので、丁度よいレベル感でした。
所有と経営の分離やマーシャル・プランという単語に見覚えがある人にはぜひ読んでほしいなと思いました。高校生時代、授業で習ったこれらの単語の背景にはこういうことがあったのか、と納得がいくはずです。
もちろん、資本論・マルクス主義への理解もかなり深まります。
これまできちんと勉強してこなかった自分が、これについて大いに誤解していたことに気付かされました。
(レーニン主義との違いや、民主主義との関係など)
本書では、基本的には資本論にフォーカスして大変噛み砕いて説明されているのですが、
随所で新自由主義と比較して説明されているので、ネオリベへの理解も深まったと感じられます。
新自由主義のことを「資本主義が先祖返りした(p.25)」と形容していたのは特に印象的。
また、資本論がGAFAのような超巨大企業の出現を予測していたことには、驚かされました。私達は革命前夜にいるのではないか、とさえ考えたほどです。
ネオリベについて理解を深めるために、意外にも参考になる一冊でした。
人新世の「資本論」
さらに、資本論を通していまの社会問題を考えたい人には、こちらの本も役に立つでしょう。
格差問題や地球温暖化といった、現在話題になっている世界的問題を取り上げています。
資本主義の問題点を指摘し、資本論をもとにこれら世界的問題を解決するにはどうしたらよいいのか、解決策を議論しています。
資本論第一巻執筆後の、マルクスの思想の変化まで説明していました。マルクスへの理解も深められた気がします。
読んでいて特に驚いたのは、SDGsを大衆のアヘンと切り捨てていたところでした。
なぜそう言えるのかは、ぜひご自身で読んで考えていただきたいなと思います。
SDGsが何なのか関心がある人、あるいが逆に懐疑的な人にとっても、考えを深められるのではないかと思います。
おわりに
ネオリアリズムが広まっていく(?)中、これまで当たり前だった安定した生活を送るためには、
これからは個人個人の工夫がより一層求められるようになってきたのだと思います。
いきなり自分を変えることは不可能ですが、少なくともこの心構えは持ちたいと思います。
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