実直に仕事をしたい人にこそ読んでほしい「社内政治の教科書」(高城幸司 著)を研究者視点で考える

この本を読んだきっかけ

社内政治と言われると、島耕作シリーズのようなドロドロとした派閥争いのイメージが強いと思います。

私は、自称ひたむきに研究に打ち込むフレッシュな研究者として、そんなものに巻き込まれるのはまっぴらごめんだと思っていました。

派閥争いなんてのは組織の合理性やメンバーのモチベーションを無駄に低下させるものでしかない、という気持ちが強かったです。

そう考えていた頃、この「社会政治の教科書」を見つけました。

憎き「社内政治」を「教科書」にしてしまうなんて!とショックを受け、逆に読みたくなってしまいました。

 

著者によると課長クラスの管理職向けに書かれた本だそうですが、

若者にとっても有益な方法論が、いくつも説明されています。

 

中表紙の「政治を軽蔑する者は、軽蔑すべき政治しか持つことができない」(トーマス・マン)の言葉にドキッとします。

 

大学の研究室は5年もすれば大半の人は入れ替わるが、会社はそうも行かないようです。 

この本では、長い付き合いになる同僚との関係の持ち方が、様々に指南されています。

 

特に印象に残ったトピックと、それに対する研究者としての感想と考察をまとめました。

 

正論同士がぶつかり合う時、決定できるのは「影響力」を持っている方である。

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影響力を持つには周囲の信頼を得ることが大事だと言います。

「返報性の原理」に基づき、ギブアンドテイク(ただしテイクに期待しない)の協力的なネットワークを構築するのが良いそうです。

 

確かに研究者の世界でも、外の研究者からの相談や依頼に対して、見返りを求めずに受け入れている人ほど、成功している人が多いような気もしますね。

 

敵を作るよりは味方を増やした方が将来的に有利。ただし、八方美人は長続きしない。

社内の人間関係は、何年も関係が続く長期戦だからだと言います。

 

味方を増やさず個人で仕事に取り組むことも可能ですが、良いチームで取り組めば、個人よりもずっと速いスピードで業績に繋がります。だから、時には自分の主張を抑えて、味方を増やしたほうが絶対に有利だと思われます。

 

議論に勝つことは負の感情を生み出し、社内政治的には不利になってしまう。

あえて議論に負けるか、落としどころを意識する、あるいは議論自体を避けることも選ぶべきだと言います。

 

これは、議論に長けている研究者は特にやらかしてしまうことだと思います。

その場ではやり込めることができても、どうしても否定的な感情を生み出し、結局は自ら影響力を減らしてしまうことになります。

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ただし、開発に必要な科学的議論を避けてしまっては、仕事の内容が悪化してしまい本末転倒になることもあるでしょう。部署内の会議の場では積極的に議論し、後からフォローする姿勢がいいのではないかと思います。

 

また、どうしても議論が必要になった際も、「〇〇について分からないのですが…」「専門外の立場ですが…」といった感じで、ワンクッション置いて、下から出る配慮を身につけたいなと思いました。

 

直属の上司に対して、好き嫌いの感情を抱いてはいけない。クライアントのような存在として認識する。

これは研究室での処世術とも近いと感じました。教員は、色々教えてくれる先生であるだけでなく、研究について利害が一致するパートナーでもあると私は思っています。

基本的なポイントは、相手の気に入らない所を変えようとするのではなく、工夫してうまく付き合うことを意識することです。クライアントやパートナーであることを意識できると、自然と報連相がスムーズになり、信頼も得やすくなるはずだと思います。

 

派閥を避ける「中立派」は、結果的に「孤立」してしまう。

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派閥を認め、うまく折り合いをつけていく「等距離外交」が望ましいそうです。

 

私自身は派閥のせめぎ合いに直接関わった経験はないので、特に考察することはできないのですが、

研究の世界でも、派閥を無視した振る舞いをしていると、逆に同分野の人から警戒されてしまう、ということももしかしたらあるのかもしれないな、と思いました。

 

おわりに

その他にも、この本では、社内政治に対する心構えはもちろん、関係部署との距離の置き方や、挨拶の仕方、もしも派閥抗争に巻き込まれた場合の対処法(会合の断り方など)などなど、

実務的に役立つテクも多く紹介されています。

 

会社でも研究室でも、優れたチームとして取り組めば、個人プレーで取り組むよりも絶対高い生産性を得られるはずです。

そんな優れたチームを、立場や役職の異なる人達を巻き込んで形成するためのヒントが多く得られる本でした。

新入社員や駆け出しポスドクのうちから読んでおいても、早すぎることはない。また、アカデミアの人にとっても得られることはきっと多いそんな一冊だと思います。

 

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