工夫して数学を活用すれば物事は捗る。「とんでもなく面白い 仕事に役立つ数学」

数学を勉強する意味は?

学校で勉強する教科の中で、「これって生きていく上で必要なの?」という疑問の声を最も耳にするのは数学だと思います。(あと漢文も多いかもしれません)

私は研究職という仕事柄、毎日のように何らかの数式や数学的思考を使って課題解決をしてきたので、

「数学は仕事によっては必要だ」と考えつつも、一方では「非専門的な仕事(研究以外の仕事)や、日常生活では滅多に使わないなあ」という感じで捉えていました。

 

しかしながら「とんでもなく面白い 仕事に役立つ数学」(西成活裕 著)を読んで、自分がまだまだ甘いことが分かりました。

「数学ってこんなに面白くて使えるのに、どうしてもっと仕事に活かさないの?」(まえがき)

この本では、実験データの処理やモデルの構築で使われるような専門的な数式ではなく、高校の授業や大学の講義で習う一般的な数学の内容を使って、より様々に数学を活用するヒントを説明しています。

大学で教わった時は正直退屈でしたが、本書を通じてその有用性を理解できれば、色んな仕事をもっと面白かつ画期的に取り組めるような気がしてきます。

グラフやイラスト、さらには西成先生の写真まで使われていて、分かりやすいだけでなく読んでいて楽しい数学本です。

 

以下に、特に印象的だったトピックとそれに対する感想をいくつか紹介します。

 

高校や大学で習った数学を学び直す

固有値と微分

特に専門科目の数学を勉強していると、「固有値」「固有値問題」というキーワードがしばしば出てきます。

有名なのはシュレディンガー方程式で、左辺は微分積分などの記号(演算子)が掛けられた関数、右辺は定数が掛けられた関数で表される式です。

講義で「シュレディンガー方程式を解くのは固有値を求めることだ!」と説明されても聴いてる私は「???」という気分になっていたものですが、

この本を読んで(少なくとも1つの側面で)固有値の意味が腑に落ちました。

正確な理解のためにはぜひ本書を読んで欲しいと思うのですが、簡単に書くと、「微分や積分といった操作を、単なる掛け算で表せるのが固有値」ということになります。

 

また、シンプルな(線形な、と言ってよいかどうかは自信が無い)微分方程式の場合、固有値が0より小さければ、元々の方程式はxが大きくなるにつれて変動が小さくなり、収束します。

(シンプルじゃない場合はどうなるんだ、という話になりますが、限られた範囲のxを考えるなら、後述したテイラー展開を応用することで式をシンプル化できます)

この考え方は、飛行機の安定性を解析することに使えるそうです。

その他にも、国家の安定性や感染症の広がり方を考える場面でも役立てることが可能で、万能な考え方であることがよく分かりました。

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回転とオイラーの公式の関係

自然対数eのiπ乗が-1になるという、オイラーの等式は非常に有名です。(「博士の愛した数式」で登場するあの式)

この式は、オイラーの公式 e^iθ = cosθ + isinθ でθ = πを代入することで得られます。

ここまでの説明は講義で習った記憶はあるものの、θ = πの意味までは理解していませんでした。

 

本書では、オイラーの公式の意味や実践的な使い方までカバーしてくれます。

座標にe^iθやcosθ + isinθ を掛けることで、複素平面上で原点を中心にしてθだけ回転させるという意味になります。

そしてθ = πというのは、180°回転させることになります。180°回転させれば、原点を挟んで反対側に座標が移動するので、-1を掛けたことと同じ意味になります。

θ = π/2、つまり90°回転させる場合は、e^iπ/2 = になります。実数軸上の点(1,0)を90°回転すると(0,1)となり、虚数軸上に移動することと一致します。

 

このような回転の計算を応用し、例えば3次元物体の回転(ロール、ヨー、ピッチ)をsin, cosで表し計算することができるそうです。

スプラトゥーンやゼルダのプレイ中に画面を回転させている時には、Switch本体内部で一生懸命こんな計算が行われているのだろうな、と思って読んでいました。

 

テイラー展開

高校では、1次関数や2次関数に加え、対数関数や指数関数、そして三角関数と様々な関数を習います。これらを複数含んだ関数は計算が非常に面倒になるのは、微積分を通じて誰もが実感しているはずです。

ところがテイラー展開を使うことで、sinやlogみたいな扱いにくい関数も、全てxやx^2といったn次関数の足し合わせで近似的に扱えるそうです。

この近似が有効なのはxが小さい(0に近い)場合だけです。しかしながら、xが100くらいの時を考えたければ、x-100を改めてxと置くことで、xが0近くの場合と同様にテイラー展開で考えることが可能です。

これを活用することで、複雑な形の関数でもシンプルなものとして扱い、上述したような解析を簡単に済ませることができるそうです。

 

まとめ

この本を読むことで、大学の講義で習ったことが「ああ、あれはこういう意味だったのか」「この式はこういう考え方でで応用すればいいのか」といった感じで腑に落ちていくのが快感でした。

 

ちなみに巻末には、有名な数学者がどのような人生だったかがまとめられています。

これをきっかけに知ったのですが、今やデータ解析ではスタンダードとなっている最小二乗法は、当時まだ未成年だったガウスが発明したものらしいです。(ルジャンドルが先に発明したという主張もあるそうです)

ガウス、恐るべし…。