- 実際に行われた講義を基に構成されている
- 習う側に寄り添った説明
- 身近な現象を使った例題
- それでも不安な人には「補講」用の一冊「ファインマン流 物理がわかるコツ」を
- 情報科学や計算機科学の勉強用に「ファインマン計算機科学」も存在!
教科書だけポンと渡されても、内容を理解して問題を解けるようになるのは中々難しいですよね。
普通の教科書は余計な文章が省かれており、内容を理解するためには講師による補足説明がどうしても必要になってしまうことが、その理由の1つであると思います。
ところが、「ファインマン物理学」はその例外で、一人で読むだけでもスラスラと頭の中に入ってきてしまうのです。(もちろん高校数学など基本的な知識は前提として必要)
このページでは、その理由を整理して説明します。
実際に行われた講義を基に構成されている
これは1点めにして最大の特徴だと考えています。
「ファインマン物理学」シリーズは、ファインマン本人がカリフォルニア工科大学で行った実際の講義を記録し、教科書化されたものであるという、数多くある物理の教科書の中でも、かなり珍しいきっかけで製作されたものです。(私が知らないだけで他にもあるかもしれませんが)
まえがきによると、講義を録音し、再構成して教科書化したものだそうです。
そんな経緯なので、以下2つの長所がこの本にはあります。
口語体の文章
多くの教科書に書かれているような、無味乾燥な文章ではまったくありません。
例えば「少し後戻りしてみよう」「それは計算機の仕事である!」というように、非常にカジュアルな文体となっています。
まるで、ファインマン先生が本の中から直接語りかけてくるような、あるいは自分がカルテックで講義を受けているような、そんな気分になります。
特に特に衝撃を受けたのは、「<5> 量子力学」での不確定性原理に関する話です。
ハイゼンベルグは、仮に運動量と位置の正確な同時測定が可能であるとすれば、量子力学はつぶれてしまうことを認めている。
(中略)
量子力学は危ういきわどい橋を渡りながら、なお現在でも正しい理論として、その存在を保ち続けているのである。(第1章)
・・・私は不確定性原理を初めて習った時、「本当にこんな式が常に成り立つのか!?」と疑問を抱いたのを覚えています。
ですが、この文章を読んだことで、ファインマン先生から「疑問に思うのも当然だ。でもちゃんと成り立っているんだ」と力強いメッセージを受け取ったような気持ちになりました。
例え話や話の脱線がそのまま載っている
エッセイかよ!と突っ込みたくなるような小話まで、そのまま文章化されてしまっています。
このくだけた文章は、(不適切な例えかもしれないが)wikipediaとニコニコ大百科くらいの違いがあります。
読んでいて疲れないのは、断然後者ですよね。
習う側に寄り添った説明
単に文章が読みやすい、というだけではなく、勉強する側の理解を手助けしてくれる補足説明が多く織り込まれています。
「いきなりこの式が出てきて戸惑うかもしれない。」「諸君の中には、『それは違う』と思う人もいるだろう。」というように、読む側(聴講者)の理解スピードを配慮した、とても親切な教科書です。
ファインマン先生のこのような姿勢は、後述する解説本でも触れられています。
とにかく、ファインマン先生の人気の秘密は、天才ぶらない点だろう。学生をバカにしていない。熱意をこめて真摯な態度で教育に力を注いでいる。
竹内薫著「ファインマン物理学」を読む 普及版 力学と熱力学を中心として p.53
また、「この式では○○のように書いてもよい」などと、正しい答えや表記法が1つでない場合はちゃんとそのことも教えてくれます。式の書き方など、各人の表現の好みに対しても配慮を感じさせます。
身近な現象を使った例題
例えば、電磁気学の第9章では、ほぼ1章を費やして、雲の中の電荷分布や、雷のメカニズムを説明しています。
その一方で、量子力学や相対性理論といった、ロマンのある(一般人並の感想)話も織り交ぜられています。なので、高度な内容を扱っているにも関わらず、読んでいて不思議とワクワクしてきます。
個人的には、基本的な電磁誘導のモデルを発展させて、光が電磁波であることや、光速・透磁率・誘電率の関係を示した説明が特に素晴らしく、感動しました。
この「ファインマン物理学」シリーズは、5分野(力学、光・熱・波動、電磁気学、電磁波と物性、量子力学)で構成されています。
たった1人でこれだけの講義を作り上げたのだから、ファインマン先生の力量や熱量には驚かされます。
それでも不安な人には「補講」用の一冊「ファインマン流 物理がわかるコツ」を
基礎的な微分積分から、棒と重りを使った力学的問題(日本の高校の物理で扱う内容とほぼ同じ)、
さらに発展させて原子核、イオンエンジン、光子推進エンジン(!)の原理まで、問題演習を通じてとても丁寧に説明しています。
この教科書ももちろん、ファインマン先生の特色がとても濃く出ています。
補講中にファインマン先生が語った内容が忠実に綴られており、読者に対しても直接語り口調で綴られていました。(この文調について、あとがきで面白い裏話が暴露されているので必読)
ファインマン先生は、講義の前に演習問題を自分で解いていたそうです。
そのときに自分がどのような計算ミスをしてしまったのか、そしてどう解決したのか、
試行錯誤の過程を洗いざらい説明してくれています。
この説明のおかげで、間違いやすいポイントに気付けるだけでなく、ファインマン先生や物理の問題に対してとても親しみやすい印象を、私は感じることができました。
「ここでやっている方法は簡単そうにみえるがそうではない。じつは僕自身、間違いなくやるのに何度もやりなおしているのだ!」(2.7節 p.59)
と書かれた教科書が他にあるでしょうか。(いや、無い!)
あとがきでは、ファインマン物理学の共著者マシュー・サンズによって、出版経緯が詳しく説明されています。
例えば、教科書の序(まえがき)でファインマン先生は「わたしは(これらの講義が)学生のために大いに役に立ったとは思わない」と語っているのですが、
なぜそのようなショッキングな発言が飛び出したのか、背景を説明していました。
いろいろと腹落ちができ、物理学そのものだけでなく、ファインマン物理学に対して理解が深まった気がしました。
ちなみに、日本人著者による解説書も出版されています。それでも本書を独力で読むのは大変だ、と感じる人には、これを片手に勉強していくのも良いかもしれません。
「ファインマン物理学」を読む 普及版 全3冊合本版 (ブルーバックス)
教科書の記述内容に対するより突っ込んだ解説や、最新の研究開発との関連付け等々、学習内容をサポートしてくれるので、さらに分かりやすく感じるはずです。
情報科学や計算機科学の勉強用に「ファインマン計算機科学」も存在!
同様の経緯で、ファインマン先生による計算機科学の講義をまとめた本も出版されています。
例えば二進法、符号化、誤り訂正といったような、理系大学生が最初に教養科目(あるいは専門科目)で勉強する情報科学・計算機科学の内容を含んでいます。
論理ゲートを使った二進法の演算からスタートし、それを応用した符号化やメモリーに話は及び、
誤り訂正、チューリング機械やエントロピー、更には量子コンピュータといった概念まで説明されています。
情報科学の分野について、ファインマン先生独特の語り口調でディープに勉強できるので、私は大変気に入っています。
また、どのような半導体構造を設計すれば計算機(CPU)を製造できるのか、そしてその性能限界はどこに来るのか、という生産技術的な説明もあり、
化学や物理の実験系分野の人が読んでも興味が湧くと思いました。
個人的には、クロック同期の重要性や、「エネルギー消費なしに計算することは可能なのか」という疑問とその答えが面白かったです。(ちなみに答えはYES)
専門外の自分にとって、CPUやGPUは「中身はよくわからないけれど、性能が年々向上している万能な装置」という程度の認識しかなかったのですが、
ファインマン計算機科学を読むことで、少しは仕組みや限界に関して理解が深まったと感じています。
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